【愛妻家大田正文、合コンの幹事だったころ。完結編】「オトナになる、ということは、鳥籠を自分の手でなくすことができる、ということ」。
============
(関連記事)
【愛妻家大田正文、合コンの幹事だったころ。その1】「なんだか、ひとりで歩いていくまさふみの背中が、すごくさみしそうに見えたんだ」
http://aisaikamasa.blog91.fc2.com/blog-entry-806.html
【愛妻家大田正文、合コンの幹事だったころ。その2】「わたし、きょうはひさしぶりに、ホントにすっごく楽しかったんだ」
http://aisaikamasa.blog91.fc2.com/blog-entry-807.html
============
「……わたしね」
「わたし、きょうはひさしぶりに、ホントにすっごく楽しかったんだ」
「わたし、……普段、自由に外に出られないから」
シーバスのグラスの氷が、カラン、と鳴った。
■「聴きたい?」
レイコが、僕の方を見て、意味深に笑う。
これは、あまりシリアスにしないほうがいいかも。そう考えた僕は、冗談っぽく返した。
「えへん。そこまで言うなら、聴かせてもらおうじゃないか」
「まだ、教えてあげない」
「そんなこと言ってる間に、僕が酔いつぶれて、聴いてあげられなくなっても知りませんよ」
「なんで急に敬語になるかな」
「私を酔わせて、どうするつもり?」
「またそうやって、おねえさんをからかわない〜!」
「いっこ違いで、おねえさんっぷりを発揮されても、説得力ないですよー。ていうか、僕、間違いなく、この一杯で酔える自信満々ですよ」
「もー、しょうがないなー。」
「じゃあ、まさふみには特別だよ。誰にも話してないんだ」
■ここで、レイコが話してくれた、レイコ自身のことを、少し書いておこうと思う。
レイコも地元は広島、中学受験で広島でも有数の中高一貫校の女子校に合格。東京の大学を卒業後は、家族の希望もあり、広島本社の会社に就職して広島勤務、今は実家から会社に通っている。
レイコの実家は、地元ではちょっとした名家で、レイコは、いわゆる「お嬢様」として、大切に育てられた。箱入り娘、ってやつだ。
■当然、レイコは恋愛方面についても疎かった。家のガードが固かったこともあり、中高は女子校、大学ではじめての彼氏ができたらしいが、これまで男性と接したことがなかったため、どうしていいかわからず、長続きしなかったらしい。
そして、レイコは、今現在のことを話しはじめた。
「わたし、つきあって2年になる彼がいるのね。」
「へえ、いいじゃない。彼とはどこで出会ったの?」
「両親の友人の息子さん。大学を卒業して、就職で広島にかえってきたときに、両親に紹介されたの」
「それって、許嫁ってこと?」
「うーん、ちょっと違うけれど、似たようなものかなー。お互いの両親とも行き来があるしね」
■ここでレイコは、ちょっと話をとめて、僕に謝ってきた。
「ごめんね、彼氏がいるのに、合コンに参加して」
「え、なんで?いいんじゃない。独身の時は色々経験するべきだよ。僕の場合は、もし自分がホレた相手に彼氏がいたとしても、結婚していなかったらOKだよ。だって、僕と出会う前にたまたまそいつに出会っていた、っていう順番が違うだけで、絶対そいつより僕のほうがいい男に違いないからね」
レイコは、意外そうな顔をして、そして笑顔で、僕の肩を叩いて、言った。
「ウケるー!まさふみ、どこからそんな自信が出てくるのー!でも、ありがと。ちょっとだけ罪悪感を感じてたんだー」
お嬢様だけあって、レイコって律儀で、正直だな、と思った。
■「それで、2年つきあっている彼とは、うまく行ってるの?」
「うん、それがね。」
「彼、わたしを凄く束縛するんだ」
「束縛って、どういうふうに?」
「彼、ずっとわたしにそばに居て欲しい、って」
「ほうほう、熱いじゃない」
「だから、わたし、会社で仕事しているとき以外は、ずっと彼と一緒にいるんだ。一緒にいない時は、携帯に彼からメールや電話がかかってくるし、ちょっとでも帰りが遅くなったら、『どこに行ってたんだ!』って、凄く怒るんだ」
「男友達と遊びに行っちゃだめって。それだけじゃなくて、女友達とも遊びに行っちゃだめって言うの。遊びに行こうとすると、俺をおいてどこに行くんだ!って言って、結局外出させてくれないの」
■このあとの言葉に、僕は、衝撃を受ける。
「それだけならまだいいけど、最近、彼、わたしに暴力を振るうんだ」
「え……?」
「仕事で、ちょっと帰りが遅くなると『誰とあってたんだ!』って。でも、すぐに謝ってくるんだけどね」
「今日も、彼に『行くな!』って言われたけど、彼がコンビニに買い物にいっている隙にでてきちゃった」
「ちょっとまって。彼が暴力を振るうって、レイコのご両親は知っているの?」
「ううん、知らない。彼、両親の前では凄くいい人だから」
「それでね、実はわたし、半年後に彼との結婚が決まってるの」
「……。」
「ねえ、まさふみ」
「わたし、どうしたらいいと思う?」
■僕の経験上、女性に「どうしたらいい?」と聴かれた時は、女性は99%、自分の答えを持っている。自分が選ぶ、その答えが正しいのか、人に聴いて、確認したいだけだ。
「……ちょっとだけ、聴いてもいいかな。レイコは、彼のことを好きなの?彼と結婚したいの?」
「うん、好き……だとおもう」
僕は、レイコの彼に対する思いは、愛情ではないと思った。
愛情ではなく、レイコ自身が、彼に必要とされている状況に、満足感を覚えているだけだ。
−『愛情』と、『承認欲求』は違う。
「これは、僕なら、の話だけど−。レイコ、僕だったら結婚しないよ。暴力を振るう男は、一生、暴力を振るい続けるからね。今は、『好き』という気持ちがあるから問題が見えないかもしれないけれど、これから先、『好き』という気持ちが薄れた後も、一生、一緒にいることを考えると、そんな生活に耐えられる?」
「やっぱり、そうだよね」
そして僕は、この後のレイコの言葉で、レイコが決めている道が、はっきりわかった。
「でもね。」
「彼、わたしがいないとだめなんだ。『俺は、レイコがいないと生きていけない』って、彼、子供みたいに泣くのよ」
レイコは、カバンから携帯電話を取り出して、僕に画面を見せてくれた。
チャクシン 26 ケン
彼女の携帯電話の履歴には、彼からの着信やメールが、大量に残っていた−。
「わたし、ちょっと電話してくるね」
彼女は席を外す。
「マスター、お会計いいかな?」
レイコが電話をしている間に、会計を済ませる。
15分ほどして、レイコが戻ってきた。
「おまたせー!」
僕は、ほんとうはレイコに聴きたかった言葉を飲み込んで、言った。
「そろそろ出よっか」
「うん」
■レイコが乗るバス停まで、一緒に歩く。季節は6月。夜風が気持よかった。
「きょうは、聴いてくれてありがとね」
「いえいえ、なんの力にもなれませんで。そして、『私を酔わせてどうするつもり?』」
「まだ言うかー!でも、まさふみにきいてもらえて、ほんと心が軽くなったよ」
「そりゃよかった」
僕は、ずっと悶々とした気持ちを抱えたままだったけれど。
そして、レイコが乗るバス停に着く。
「レイコ、僕で良かったら、これからも話を聴くよ」
「ありがとう」
「……でも、ごめんね。彼がいるから、もう二度と、まさふみには会えないと思うんだ」
「でも、まさふみに『話を聴くよ』っていってもらえて嬉しかった。ありがとう」
バスが到着する。バスに乗り込みながら、彼女が言った。
「今日、まさふみが連れていってくれたお店の名前『Refuge』だったでしょ?Refugeの意味、知ってる?」
「『隠れ家』でしょ。あのお店、僕の隠れ家だから」
「そうなんだけど、もうひとつ意味があるの」
「『こころのよりどころになる人』って意味。わたし、今夜は、まさふみをこころのよりどころにしてたよ」
バスの扉が閉まって、ゆっくり走りだす−。
=======
■彼女は、鳥籠の中の鳥のような人だった。
両親と、彼という籠に入れられて、身動きがとれなくなってしまった鳥。
オトナになる、ということは、鳥籠を自分の手でなくすことができる、ということだ。
そして、彼女も、心の奥底では、それを望んでいた。
でも、ダメだった。
彼女は、生まれてからずっと、鳥籠の中で暮らしていたから。
鳥籠がない場所に出ても、飛び方を忘れてしまっていたんだ。
■そして、僕は、結局彼女に聴けなかった。
「なぜ、僕に話してくれたんですか?」
と。
おわり
(関連記事)
【愛妻家大田正文、合コンの幹事だったころ。その1】「なんだか、ひとりで歩いていくまさふみの背中が、すごくさみしそうに見えたんだ」
http://aisaikamasa.blog91.fc2.com/blog-entry-806.html
【愛妻家大田正文、合コンの幹事だったころ。その2】「わたし、きょうはひさしぶりに、ホントにすっごく楽しかったんだ」
http://aisaikamasa.blog91.fc2.com/blog-entry-807.html
============
「……わたしね」
「わたし、きょうはひさしぶりに、ホントにすっごく楽しかったんだ」
「わたし、……普段、自由に外に出られないから」
シーバスのグラスの氷が、カラン、と鳴った。
■「聴きたい?」
レイコが、僕の方を見て、意味深に笑う。
これは、あまりシリアスにしないほうがいいかも。そう考えた僕は、冗談っぽく返した。
「えへん。そこまで言うなら、聴かせてもらおうじゃないか」
「まだ、教えてあげない」
「そんなこと言ってる間に、僕が酔いつぶれて、聴いてあげられなくなっても知りませんよ」
「なんで急に敬語になるかな」
「私を酔わせて、どうするつもり?」
「またそうやって、おねえさんをからかわない〜!」
「いっこ違いで、おねえさんっぷりを発揮されても、説得力ないですよー。ていうか、僕、間違いなく、この一杯で酔える自信満々ですよ」
「もー、しょうがないなー。」
「じゃあ、まさふみには特別だよ。誰にも話してないんだ」
■ここで、レイコが話してくれた、レイコ自身のことを、少し書いておこうと思う。
レイコも地元は広島、中学受験で広島でも有数の中高一貫校の女子校に合格。東京の大学を卒業後は、家族の希望もあり、広島本社の会社に就職して広島勤務、今は実家から会社に通っている。
レイコの実家は、地元ではちょっとした名家で、レイコは、いわゆる「お嬢様」として、大切に育てられた。箱入り娘、ってやつだ。
■当然、レイコは恋愛方面についても疎かった。家のガードが固かったこともあり、中高は女子校、大学ではじめての彼氏ができたらしいが、これまで男性と接したことがなかったため、どうしていいかわからず、長続きしなかったらしい。
そして、レイコは、今現在のことを話しはじめた。
「わたし、つきあって2年になる彼がいるのね。」
「へえ、いいじゃない。彼とはどこで出会ったの?」
「両親の友人の息子さん。大学を卒業して、就職で広島にかえってきたときに、両親に紹介されたの」
「それって、許嫁ってこと?」
「うーん、ちょっと違うけれど、似たようなものかなー。お互いの両親とも行き来があるしね」
■ここでレイコは、ちょっと話をとめて、僕に謝ってきた。
「ごめんね、彼氏がいるのに、合コンに参加して」
「え、なんで?いいんじゃない。独身の時は色々経験するべきだよ。僕の場合は、もし自分がホレた相手に彼氏がいたとしても、結婚していなかったらOKだよ。だって、僕と出会う前にたまたまそいつに出会っていた、っていう順番が違うだけで、絶対そいつより僕のほうがいい男に違いないからね」
レイコは、意外そうな顔をして、そして笑顔で、僕の肩を叩いて、言った。
「ウケるー!まさふみ、どこからそんな自信が出てくるのー!でも、ありがと。ちょっとだけ罪悪感を感じてたんだー」
お嬢様だけあって、レイコって律儀で、正直だな、と思った。
■「それで、2年つきあっている彼とは、うまく行ってるの?」
「うん、それがね。」
「彼、わたしを凄く束縛するんだ」
「束縛って、どういうふうに?」
「彼、ずっとわたしにそばに居て欲しい、って」
「ほうほう、熱いじゃない」
「だから、わたし、会社で仕事しているとき以外は、ずっと彼と一緒にいるんだ。一緒にいない時は、携帯に彼からメールや電話がかかってくるし、ちょっとでも帰りが遅くなったら、『どこに行ってたんだ!』って、凄く怒るんだ」
「男友達と遊びに行っちゃだめって。それだけじゃなくて、女友達とも遊びに行っちゃだめって言うの。遊びに行こうとすると、俺をおいてどこに行くんだ!って言って、結局外出させてくれないの」
■このあとの言葉に、僕は、衝撃を受ける。
「それだけならまだいいけど、最近、彼、わたしに暴力を振るうんだ」
「え……?」
「仕事で、ちょっと帰りが遅くなると『誰とあってたんだ!』って。でも、すぐに謝ってくるんだけどね」
「今日も、彼に『行くな!』って言われたけど、彼がコンビニに買い物にいっている隙にでてきちゃった」
「ちょっとまって。彼が暴力を振るうって、レイコのご両親は知っているの?」
「ううん、知らない。彼、両親の前では凄くいい人だから」
「それでね、実はわたし、半年後に彼との結婚が決まってるの」
「……。」
「ねえ、まさふみ」
「わたし、どうしたらいいと思う?」
■僕の経験上、女性に「どうしたらいい?」と聴かれた時は、女性は99%、自分の答えを持っている。自分が選ぶ、その答えが正しいのか、人に聴いて、確認したいだけだ。
「……ちょっとだけ、聴いてもいいかな。レイコは、彼のことを好きなの?彼と結婚したいの?」
「うん、好き……だとおもう」
僕は、レイコの彼に対する思いは、愛情ではないと思った。
愛情ではなく、レイコ自身が、彼に必要とされている状況に、満足感を覚えているだけだ。
−『愛情』と、『承認欲求』は違う。
「これは、僕なら、の話だけど−。レイコ、僕だったら結婚しないよ。暴力を振るう男は、一生、暴力を振るい続けるからね。今は、『好き』という気持ちがあるから問題が見えないかもしれないけれど、これから先、『好き』という気持ちが薄れた後も、一生、一緒にいることを考えると、そんな生活に耐えられる?」
「やっぱり、そうだよね」
そして僕は、この後のレイコの言葉で、レイコが決めている道が、はっきりわかった。
「でもね。」
「彼、わたしがいないとだめなんだ。『俺は、レイコがいないと生きていけない』って、彼、子供みたいに泣くのよ」
レイコは、カバンから携帯電話を取り出して、僕に画面を見せてくれた。
チャクシン 26 ケン
彼女の携帯電話の履歴には、彼からの着信やメールが、大量に残っていた−。
「わたし、ちょっと電話してくるね」
彼女は席を外す。
「マスター、お会計いいかな?」
レイコが電話をしている間に、会計を済ませる。
15分ほどして、レイコが戻ってきた。
「おまたせー!」
僕は、ほんとうはレイコに聴きたかった言葉を飲み込んで、言った。
「そろそろ出よっか」
「うん」
■レイコが乗るバス停まで、一緒に歩く。季節は6月。夜風が気持よかった。
「きょうは、聴いてくれてありがとね」
「いえいえ、なんの力にもなれませんで。そして、『私を酔わせてどうするつもり?』」
「まだ言うかー!でも、まさふみにきいてもらえて、ほんと心が軽くなったよ」
「そりゃよかった」
僕は、ずっと悶々とした気持ちを抱えたままだったけれど。
そして、レイコが乗るバス停に着く。
「レイコ、僕で良かったら、これからも話を聴くよ」
「ありがとう」
「……でも、ごめんね。彼がいるから、もう二度と、まさふみには会えないと思うんだ」
「でも、まさふみに『話を聴くよ』っていってもらえて嬉しかった。ありがとう」
バスが到着する。バスに乗り込みながら、彼女が言った。
「今日、まさふみが連れていってくれたお店の名前『Refuge』だったでしょ?Refugeの意味、知ってる?」
「『隠れ家』でしょ。あのお店、僕の隠れ家だから」
「そうなんだけど、もうひとつ意味があるの」
「『こころのよりどころになる人』って意味。わたし、今夜は、まさふみをこころのよりどころにしてたよ」
バスの扉が閉まって、ゆっくり走りだす−。
=======
■彼女は、鳥籠の中の鳥のような人だった。
両親と、彼という籠に入れられて、身動きがとれなくなってしまった鳥。
オトナになる、ということは、鳥籠を自分の手でなくすことができる、ということだ。
そして、彼女も、心の奥底では、それを望んでいた。
でも、ダメだった。
彼女は、生まれてからずっと、鳥籠の中で暮らしていたから。
鳥籠がない場所に出ても、飛び方を忘れてしまっていたんだ。
■そして、僕は、結局彼女に聴けなかった。
「なぜ、僕に話してくれたんですか?」
と。
おわり
【愛妻家大田正文、合コンの幹事だったころ。その2】「わたし、きょうはひさしぶりに、ホントにすっごく楽しかったんだ」
=======
関連:【愛妻家大田正文、合コンの幹事だったころ。その1】「なんだか、ひとりで歩いていくまさふみの背中が、すごくさみしそうに見えたんだ」
http://aisaikamasa.blog91.fc2.com/blog-entry-806.html
=======
「でも、なんで僕を追いかけてきたの?」
「うん。なんだか、ひとりで歩いていくまさふみの背中が、すごくさみしそうに見えたんだ」
……僕は、これは、今夜は酔えないな、と想った。
■ 彼女の名前は、レイコ。
レイコとは、今回の合コンが初対面。歳は、僕のひとつ年上。
初対面の年上の女性に、「まさふみ」と名前で呼び捨てにされるのは、正直、内心ドキッとして、新鮮だった。
「そっか、さみしそうに見えた?それで追いかけてきてくれたんだ」
僕は笑った。
「うん!」
彼女も微笑う。
「でも、ホントに1〜2杯飲んで帰るだけだよ」
「うん!」
「じゃあ、いこっか」
■程なくして、新天地公園近くの、すこし奥まった雑居ビルの3階にあるショットバー「Refuge」に着く。いつも、静かに飲みながら物思いにふけることができる、僕のお気に入りの店。
店に入ると、ほとんどお客はおらず、カウンター越しに、マスターに声をかけられる。
「大田さん、いらっしゃい。おや、今日はお連れ様とご一緒なんですね」
「うん、すこし静かに飲みたくてね」
僕とレイコは、カウンター席に、横並びに座った。
「ご注文は、お決まりですか?」
「シーバス・リーガル」と、僕。
レイコは、すこし迷っている。
「わたしは、……すみません、何か甘いカクテル、ありますか?」
「マスター、甘口のカクテル、おまかせで」
僕は、頬に手をあてて、レイコの方を向いて、こう言った。
「先に言っとくけど、僕、お酒、超弱いから。『わたしを酔わせてどうするつもり?』っていうのは僕のセリフだから」
「なにそれー!」
「わたしを酔わせてどうするつもり?」
「うーん、どうしよっかなー」
■カウンターを挟んで、マスターが言う。
「シーバス・リーガルと」
「こちらは、ホワイト・ローズ。ジンをベースに、オレンジジュース・レモンジュース・卵白を使った甘口のカクテルです」
「乾杯」
「かんぱーい」
グラスを鳴らす。
「うん、おいしい!まさふみも飲む?」
「ちょっとだけ、いただこうかな」
「じゃあ、わたしもまさふみのもーらおうっと」
「フツーにシーバスだよ」
レイコとグラスを交換し、お互い、口をつけた。
「うん、甘くて美味しいね」
「これは……まごうことなきシーバスだねー」
彼女は、すこしはしゃいでいた。
■「レイコ、ほんとうは僕に、何か話したいことがあったんじゃないの?」
「どうして?」
「レイコが、僕を走って追いかけてきてくれた時に、なんとなくそう感じたんだ。もしそうなら、レイコが話せる範囲で、聴かせてくれたらうれしいな。でも、嫌だったら、何も話さなくていいよ」
……一瞬の静寂。
一呼吸おいて、彼女が、口を開いた。
「……わたしね」
「わたし、きょうはひさしぶりに、ホントにすっごく楽しかったんだ」
「わたし、……普段、自由に外に出られないから」
シーバスのグラスの氷が、カラン、と鳴った。
つづく。
関連:【愛妻家大田正文、合コンの幹事だったころ。その1】「なんだか、ひとりで歩いていくまさふみの背中が、すごくさみしそうに見えたんだ」
http://aisaikamasa.blog91.fc2.com/blog-entry-806.html
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「でも、なんで僕を追いかけてきたの?」
「うん。なんだか、ひとりで歩いていくまさふみの背中が、すごくさみしそうに見えたんだ」
……僕は、これは、今夜は酔えないな、と想った。
■ 彼女の名前は、レイコ。
レイコとは、今回の合コンが初対面。歳は、僕のひとつ年上。
初対面の年上の女性に、「まさふみ」と名前で呼び捨てにされるのは、正直、内心ドキッとして、新鮮だった。
「そっか、さみしそうに見えた?それで追いかけてきてくれたんだ」
僕は笑った。
「うん!」
彼女も微笑う。
「でも、ホントに1〜2杯飲んで帰るだけだよ」
「うん!」
「じゃあ、いこっか」
■程なくして、新天地公園近くの、すこし奥まった雑居ビルの3階にあるショットバー「Refuge」に着く。いつも、静かに飲みながら物思いにふけることができる、僕のお気に入りの店。
店に入ると、ほとんどお客はおらず、カウンター越しに、マスターに声をかけられる。
「大田さん、いらっしゃい。おや、今日はお連れ様とご一緒なんですね」
「うん、すこし静かに飲みたくてね」
僕とレイコは、カウンター席に、横並びに座った。
「ご注文は、お決まりですか?」
「シーバス・リーガル」と、僕。
レイコは、すこし迷っている。
「わたしは、……すみません、何か甘いカクテル、ありますか?」
「マスター、甘口のカクテル、おまかせで」
僕は、頬に手をあてて、レイコの方を向いて、こう言った。
「先に言っとくけど、僕、お酒、超弱いから。『わたしを酔わせてどうするつもり?』っていうのは僕のセリフだから」
「なにそれー!」
「わたしを酔わせてどうするつもり?」
「うーん、どうしよっかなー」
■カウンターを挟んで、マスターが言う。
「シーバス・リーガルと」
「こちらは、ホワイト・ローズ。ジンをベースに、オレンジジュース・レモンジュース・卵白を使った甘口のカクテルです」
「乾杯」
「かんぱーい」
グラスを鳴らす。
「うん、おいしい!まさふみも飲む?」
「ちょっとだけ、いただこうかな」
「じゃあ、わたしもまさふみのもーらおうっと」
「フツーにシーバスだよ」
レイコとグラスを交換し、お互い、口をつけた。
「うん、甘くて美味しいね」
「これは……まごうことなきシーバスだねー」
彼女は、すこしはしゃいでいた。
■「レイコ、ほんとうは僕に、何か話したいことがあったんじゃないの?」
「どうして?」
「レイコが、僕を走って追いかけてきてくれた時に、なんとなくそう感じたんだ。もしそうなら、レイコが話せる範囲で、聴かせてくれたらうれしいな。でも、嫌だったら、何も話さなくていいよ」
……一瞬の静寂。
一呼吸おいて、彼女が、口を開いた。
「……わたしね」
「わたし、きょうはひさしぶりに、ホントにすっごく楽しかったんだ」
「わたし、……普段、自由に外に出られないから」
シーバスのグラスの氷が、カラン、と鳴った。
つづく。
【愛妻家大田正文、合コンの幹事だったころ。その1】「なんだか、ひとりで歩いていくまさふみの背中が、すごくさみしそうに見えたんだ」
■ふと、昔のことを想い出したので、なんとなく書いてみる。
■これは、僕が20〜23歳の頃、毎週のように合コンの幹事を引き受けていた頃のお話。
合コンを主催するとき、僕はいつも、1次会しかやらなかった。
そのかわり、1次会だけでも、もの凄いクオリティの合コンを約束していた。
■たとえば、僕はいつも、合コン専用の店を決めていた。その店は、女性ウケするおしゃれな内装と料理を提供する店で、僕は最初から店長・バイトスタッフと仲良くなり、合コンを盛り上げる接客(正直、スタッフGJだった)や、小道具(当時はデジカメがまだなかったため、ポラロイドカメラや、男女がさり気なく接近できる衣装など)を用意してもらっていた。
さらに、1次会の中で、必ず、男女全員の携帯アドレス・電話番号を交換できるように会の運営を工夫していた。
そして、1次会が終わると、「2次会は、みんなで行ってらっしゃい!」と、良い感じに温まっている参加男女に別れを告げて、ひとり、お気に入りのバーに飲みに行くのが、合コンの夜のパターンだった。
■僕は、合コンの幹事を引き受けた時点で、参加男女に「来てよかった!」と思ってもらえる会を運営することに全エネルギーを注いでいた。そして、ずっと参加者に注意を配っているが故に、1次会で真っ白な灰になるほど、エネルギーを使い果たしていたのだ。
だからだろうか、毎週のように、女友達から「合コンやってよー!」というお願いがあったのだ。正直、幹事である僕がいい思いをしたことは、全然なかったのだが−。
■ ……そして、あの日の夜。
彼女に逢ったあの夜も、いつものように、合コンが終わった後からはじまる。
「じゃあ、僕の幹事はココまで!2次会はみんなで行ってらっしゃい!」
「えー!」「なんでー!」「大田くんもいこうよー!」「つきあいワリーぞー!」
「ゴメンゴメン、幹事は1次会しかしないって決めてるんだ」
「俺たち2次会行くけど、大田はどうするんだよー!」
「んー。ちょっとひとりで飲んで帰るわー」
「なんだよそれ、あやしーぞー!」「あやしいー!」
「じゃーねー!」
はやし立てる男女に背を向けて、僕はいつものバーの方向に歩きはじめる。
(きょうも、いい内容の合コンを仕切ったなあ)
ひとり、満足感に浸りながら、2次会のお店をどこにするかで盛り上がっている男女の声が聞こえなくなる距離まで歩いてきたとき、不意に、後ろから僕を呼ぶ声がした。
「まさふみー!まってよ、まさふみー!」
「?」
ふりかえると、合コンに参加していた女性メンバーのひとりが、僕の方に向かって走ってきた。
「どうしたの?みんなで一緒に2次会に行かないの?」
「うん。……もし、お邪魔じゃなかったら、わたしもまさふみと一緒に飲みに行ってもいい?」
彼女は、息をはずませながら、ちょっと遠慮がちに、言った。
僕は、なんとなく、彼女が、僕に話したいことがあるのだと感じ取った。しかも、それはきっと、ふたりでないと言えないようなことを。
「うん。いいよ」
そう応えた僕は、続けて聴いてみた。
「でも、なんで僕を追いかけてきたの?」
「うん。なんだか、ひとりで歩いていくまさふみの背中が、すごくさみしそうに見えたんだ」
……僕は、これは、今夜は酔えないな、と想った。
(反響があれば、つづく。)
■これは、僕が20〜23歳の頃、毎週のように合コンの幹事を引き受けていた頃のお話。
合コンを主催するとき、僕はいつも、1次会しかやらなかった。
そのかわり、1次会だけでも、もの凄いクオリティの合コンを約束していた。
■たとえば、僕はいつも、合コン専用の店を決めていた。その店は、女性ウケするおしゃれな内装と料理を提供する店で、僕は最初から店長・バイトスタッフと仲良くなり、合コンを盛り上げる接客(正直、スタッフGJだった)や、小道具(当時はデジカメがまだなかったため、ポラロイドカメラや、男女がさり気なく接近できる衣装など)を用意してもらっていた。
さらに、1次会の中で、必ず、男女全員の携帯アドレス・電話番号を交換できるように会の運営を工夫していた。
そして、1次会が終わると、「2次会は、みんなで行ってらっしゃい!」と、良い感じに温まっている参加男女に別れを告げて、ひとり、お気に入りのバーに飲みに行くのが、合コンの夜のパターンだった。
■僕は、合コンの幹事を引き受けた時点で、参加男女に「来てよかった!」と思ってもらえる会を運営することに全エネルギーを注いでいた。そして、ずっと参加者に注意を配っているが故に、1次会で真っ白な灰になるほど、エネルギーを使い果たしていたのだ。
だからだろうか、毎週のように、女友達から「合コンやってよー!」というお願いがあったのだ。正直、幹事である僕がいい思いをしたことは、全然なかったのだが−。
■ ……そして、あの日の夜。
彼女に逢ったあの夜も、いつものように、合コンが終わった後からはじまる。
「じゃあ、僕の幹事はココまで!2次会はみんなで行ってらっしゃい!」
「えー!」「なんでー!」「大田くんもいこうよー!」「つきあいワリーぞー!」
「ゴメンゴメン、幹事は1次会しかしないって決めてるんだ」
「俺たち2次会行くけど、大田はどうするんだよー!」
「んー。ちょっとひとりで飲んで帰るわー」
「なんだよそれ、あやしーぞー!」「あやしいー!」
「じゃーねー!」
はやし立てる男女に背を向けて、僕はいつものバーの方向に歩きはじめる。
(きょうも、いい内容の合コンを仕切ったなあ)
ひとり、満足感に浸りながら、2次会のお店をどこにするかで盛り上がっている男女の声が聞こえなくなる距離まで歩いてきたとき、不意に、後ろから僕を呼ぶ声がした。
「まさふみー!まってよ、まさふみー!」
「?」
ふりかえると、合コンに参加していた女性メンバーのひとりが、僕の方に向かって走ってきた。
「どうしたの?みんなで一緒に2次会に行かないの?」
「うん。……もし、お邪魔じゃなかったら、わたしもまさふみと一緒に飲みに行ってもいい?」
彼女は、息をはずませながら、ちょっと遠慮がちに、言った。
僕は、なんとなく、彼女が、僕に話したいことがあるのだと感じ取った。しかも、それはきっと、ふたりでないと言えないようなことを。
「うん。いいよ」
そう応えた僕は、続けて聴いてみた。
「でも、なんで僕を追いかけてきたの?」
「うん。なんだか、ひとりで歩いていくまさふみの背中が、すごくさみしそうに見えたんだ」
……僕は、これは、今夜は酔えないな、と想った。
(反響があれば、つづく。)
スピーカーが絶対に時間オーバーしないプレゼンスタイルが面白い。 愛妻家大田正文、ヒルズブレックファストに参加してきました。
「質疑応答で気づいた違和感→質問する方の口火の切り方」愛妻家大田正文、サイバーエージェント人事本部長 曽山哲人さんの講演に行きました。
■愛妻家大田正文、1/26の夜は、サイバーエージェント人事本部長 曽山哲人さんの講演を聴きにいきました。
■今回は、質疑応答の際に愛妻家が気づいた違和感について、みなさんにお伝えします。
■それは、質問をする方が、100%、
1 会社名
2 職種
3 自分の名前
の順番で話しに入っていったこと。
■たとえば、
「鶴亀株式会社で人事をやっている山田です」
といったように。
■何よりもたいせつな『あなたの名前』よりも、『会社名』が優先。
これが、今、ここにある世界。
■だから、愛妻家も質問をしてみました。
「大田と申します。会社員であり、ビジネス書著者でもあり、ラジオパーソナリティでもあります。(質問内容に入る)」
■……ひとりでも多くの方が。
愛妻家が感じたのと、おなじ違和感に気づいていてくれたなら。
■今回は、質疑応答の際に愛妻家が気づいた違和感について、みなさんにお伝えします。
■それは、質問をする方が、100%、
1 会社名
2 職種
3 自分の名前
の順番で話しに入っていったこと。
■たとえば、
「鶴亀株式会社で人事をやっている山田です」
といったように。
■何よりもたいせつな『あなたの名前』よりも、『会社名』が優先。
これが、今、ここにある世界。
■だから、愛妻家も質問をしてみました。
「大田と申します。会社員であり、ビジネス書著者でもあり、ラジオパーソナリティでもあります。(質問内容に入る)」
■……ひとりでも多くの方が。
愛妻家が感じたのと、おなじ違和感に気づいていてくれたなら。





